
かけがえのない、歯。
以前、当院のブログでは、歯髄を抜いた後に行う「歯の神経の治療(根管治療:こんかんちりょう)」のお話①②をさせていただきました。
歯根(歯の根っこ)を残すには、歯の神経の治療である根管治療(歯の根っこのお掃除)が欠かせません。
根管治療も重要なのですが、望ましいのは、歯根に加えて、歯の神経そのもの=「歯髄(しずい)」を残すこと。
今回は、歯を丈夫に維持するためにとっても大切な、「歯髄」のお話です。
目次
■歯の神経などが通う「歯髄」の3つの役割 神経(歯髄)を抜いた歯に歯根破折が起きやすい理由
◎刺激(痛み)を脳に伝える、歯に栄養を送る、細菌をやっつけるなど、歯髄は重要な役割を担っています
歯の表面を覆う硬いエナメル質、歯の大部分を構成する象牙質などの歯質と共に、歯の中(歯茎から上の歯冠&歯根の中)には、
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・歯の神経
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・血管
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・リンパ管
がセットになった「歯髄(しずい)」が通っています。
歯の中に歯髄があることで、私たちの歯は健康&丈夫な状態に保たれているのです。
歯を健康&丈夫に保つために、歯髄は以下のような役割を担っています。
1.噛んだときの刺激、熱さ・冷たさ、むし歯の痛みなどを脳に伝える
歯の神経は、以下のような刺激を脳に伝える機能があります。
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・噛んだときの刺激
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・熱さ・冷たさ(飲食物の温度)
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・むし歯の痛み
歯の神経がないと…
C3など、重度のむし歯で治療(抜髄+根管治療)を行い歯の神経がなくなると、噛んだときの刺激が脳に伝わりにくくなります。
神経を抜いた歯は噛んだときの刺激が脳に伝わりにくく、ついつい、食べ物を強く噛んでしまうケースが少なくありません(歯を痛める原因の一つ)。
2.血管を通じて歯に栄養(栄養が含まれた血液)を送り、歯を丈夫に保つ
歯の神経と共に、歯に通う歯髄の中には、血液が流れる血管もあります。
血管を通じて歯に以下のような栄養(栄養が含まれた血液)を送り届けることで、歯が丈夫に保たれているのです。
[歯を丈夫に保つために欠かせない、血液中に含まれる主な栄養素]
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・カルシウム
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・たんぱく質
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・ビタミン(A、C、D) など
歯の血管(歯の血管を含む歯髄)がないと…
C3など、重度のむし歯で治療(抜髄+根管治療)を行い歯の血管(歯の血管を含む歯髄)がなくなると、歯に栄養(栄養が含まれた血液)が送られなくなります。
栄養が送られなくなると、歯はもろくなっていくのです。
例えるなら、歯髄を抜いた歯は水が送られなくなった木のようなもの。水が送られなくなった木は光合成を行えず、やがて、枯れていきます。
{中高年の方は神経を抜いた歯の歯根破折に注意が必要}
40歳以降、特に50歳頃を過ぎた中高年の方は、歯の根っこが割れたり折れる「歯根破折(しこんはせつ)」が起きやすい傾向が見られます。
むし歯治療などで、若い頃や十年以上前に神経を抜いた歯への栄養の供給がストップ。歯がもろくなり、年を重ねるごとに歯にダメージが蓄積されやすいのです。
神経を抜いた歯に十年以上などの長い年月をかけてダメージが蓄積。中高年になって、歯根が割れたり折れる歯根破折が起きるケースが少なくありません。
歯根破折を防ぐために、中高年の方は
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・神経を抜いた歯で、日常的に、ナッツ類などの硬い物を噛む
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・神経を抜いた歯で、氷や飴玉などの硬い物を積極的に噛む
などの行為はできるだけ控えましょう。
3.歯の中を侵そうとする細菌を押し戻し、細菌をやっつける
歯の神経と共に、歯に通う歯髄の中には血管やリンパ管があります。
歯髄の中に血管やリンパ管があることで、歯の内圧(歯髄の内圧)を維持。むし歯菌など、外部から歯の中を侵そうとする細菌が侵入しにくい環境を維持しているのです。
歯の内圧を維持する役割に加え、歯髄に通うリンパ液には歯の中を侵そうとする細菌をやっつける免疫機能もあります(※)。
(※)歯髄に通うリンパ液には、むし歯菌を
完全に殺菌するほどの殺菌能力はありません。
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以上3つが、歯の神経「歯髄」が持つ役割です。意外にも、歯髄が多くの役割を担っていることに驚いた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
歯の中に通う歯髄の大切さをご認識いただいた上で、次の項では、「根管治療を行い、歯根を残す重要性」についてお話しします。
■根管治療を行い、歯根を残す重要性
◎抜髄後に根管治療を行い、歯根を残すことで、ご自身の天然の歯の維持につながります
大切な役割を担っている、歯髄。
歯を丈夫に維持するには、歯髄が欠かせません。歯髄を維持するのが望ましいですが、重度のむし歯、歯を強くぶつけたなど、歯の状態によっては、
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・抜髄(ばつずい:歯髄を抜く処置)
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・根管治療(こんかんちりょう:歯の根っこのお掃除(根管部の抜髄))
が必要になるケースも。
抜髄後に根管治療を行い、歯根を残すことで、以下のような機能の維持(ご自身の天然の歯の維持)につながります。
1.歯根膜を残すことで、噛んだときの衝撃をやわらげられる
歯根を残すことで、歯根(歯)と顎の骨をつなぎ留めている靭帯組織「歯根膜(しこんまく)」を残せます。
歯根膜を残すことにより、歯根膜がクッションの役割を果たし、噛んだときの衝撃をやわらげられるのです。
噛んだときの衝撃を歯根膜がやわらげることで、噛んだときにかかる歯根や顎の骨へのダメージを軽減しやすくなります。
2.歯根を残して差し歯に磁石をつけ、マグネット式の総入れ歯を使える場合がある
自費の総入れ歯には、差し歯に磁石をつけ、磁力で総入れ歯を装着するマグネット式の入れ歯が存在します(※)。
歯根を残して差し歯に磁石をつけることで、マグネット式の自費の総入れ歯を使える場合があるのです。
(※)クリニックにより、取り扱う入れ歯の種類が異なります。すべてのクリニックがマグネット式の自費の総入れ歯を取り扱っている訳ではありません。
【歯に違和感・痛みがあるときは、できるだけ早めに歯科医院を受診しましょう】
刺激(痛み)を脳に伝える、歯に栄養を送る、細菌をやっつけるなど、重要な役割を担っている「歯髄」。
歯髄を残すには、歯の神経までむし歯(むし歯菌)を進行させないことが重要です。
むし歯による歯のしみ・痛みなど、歯に違和感・痛みがあるときは、できるだけ早めに歯科医院を受診しましょう。

